本当の旅(a true travel) 平成26年度 卒業式 式辞より

思い

 さて二百二十名の皆さん、「卒業おめでとうございます。」
 
 みなさんに直接話すのも今日で最後となります。
 義務教育の修了と、皆さんの新たな門出にあたり、私自身の根っこにある話を伝えたいと思います。

 私は、7年前に大きな手術をしました。まさに「命を賭けた手術」、そこに至る奇跡的な出来事はさておき、10時間の手術で奇跡的に命をつなぎました。その後の3ヶ月間の入院生活は、苦しい時間でもあり、自分自身多くのことを考え、学ぶ時間でもありました。
 そのときに学んだ二つのことを伝えておきたいと思います。

 まず1つは、「当たり前と思っていることは当たり前ではない。」ということです。私は、「どんなに息を吸っても空気(酸素)が入ってこないという苦しさ」から、息をすることすら当たり前ではないのだと学びました。そして、そう考えたとき、普段「あたりまえ」と思っている生活の一つ一つ、出来事の一つ一つがとても価値あること、価値ある時間だと感じるようになったような気がします。
 もう一つは「頑張れ!」という言葉です。私自身もよく口にする言葉「がんばれ!」ですし、とても力を与える言葉です。でも、本当にギリギリの状態に置かれた人間にとって、それ以上の言葉があるということを知りました。それは、家族や看護師さんから受け取った「大丈夫ですよ。」「いいんですよ。」という言葉でした。優しい言葉での裏に、「その人のために、その人のことを支えていくのだという強い覚悟」を感じることができ、大きな勇気をいただきました。
 この二つのことから、「人は生かされているのだ」と強く感じました。そして、それならば、少しでも自分の納得のいく生き方、悔いのない生き方をしたいとも考えました。

これからの時代を築き、未来を託されたみなさんに一つの詩を贈りたいと思います。
  ナジーム・ヒクメット の「本当の旅(a true travel)」という詩です。

  最も立派な詩は まだ書かれていない
  最も美しい歌は まだ歌われていない
  最高の日々とは まだ過ぎていない日々のこと
  最も広い海には まだ誰も航海に出ず
  最も遠くへの旅は まだ終わっていない
  不滅の踊りは まだ踊られておらず
  最も輝く星とは まだ見つけられていない星
  何をすべきか まるで分からなくなった時
  その時にこそ 本当の何かができる
  どこへ向かえばいいのか まるで分からなくなった時
  その時こそが まさに本当の旅の始まり

最後になりましたが、この子たちの未来が素晴らしいものになるよう、この場に同席される全ての皆様のご支援をお願いいたします。
「自分だけのシンフォニー」は、次の楽章に進もうとしています。
 「悔いのない生き方」を期待し、忘れてはならない「震災からの復興」が使命である社会に踏み出してくれることを願い、式辞といたします。