2012年4月6日
新入生の保護者のみなさんへ 「雀」
保護者のみなさん、あらためて御入学おめでとうございます。
中学校3年間、子どもたちは大きく成長します。
体も大きくなり、周りの「社会」や「大人たち」の姿をみる目を着実に肥えていきます。さらに、自らの身の丈を知ることから、自分の生き方に向き合い、時には迷い、苦しみます。
しかし、その一方で、いろいろな感動と出逢い、精神的にも大きく成長していくのは間違いありません。身の丈を知らざるを得ないこともしっかりと自分のみ中で受け入れ、子どもから大人になっていくのでしょう。
ツルゲーネフの詩文に「雀」という作品があります。
作者が犬をつれて歩いている時に出逢った親雀の姿を描いたものです。
巣から落ちた我が子を、近づいてくる犬から救おうと、巣から飛び降り、雀にとってあまりにも巨大な犬に対して二度三度とびかかる親雀を歌った詩です。作者は「その姿に愛犬も後ずさりをした。・・・・その姿を認めたに違いない。」と続けています。
この大きな犬が象徴しているのは何なのか。・・・それは、子どもたちを取り巻く幾多の誘惑であり、ひとり一人の子どもたちの苦しさであり葛藤なのでしょう。
私たち学校の職員も、共に戦う一人でありたいと思います。
私たちは精一杯努力します。しかし、時には失敗もあるでしょう。勇み足もあるのかもしれません。
しかし、思いは常に、先ほどの式辞で述べたところにあります。
力を合わせましょう。すべてはこの子たちのために・・・・
【参考】
すずめ
猟から帰って、庭の並木道を歩いていた。犬が、前を駆けていく。ふと、犬は歩みをゆるめて、忍び足になった。行く手に獲物をかぎつけた気配。見ると、並木道の先に、小すずめが一羽いた。まだくちばしのまわりが黄いろく、頭には綿毛が生えている。白樺の並木をひどく揺すぶるところを見れば、小すずめは巣から振りおとされて、生えかけのつばさを力なく広げたまま、じっと動けずにいるのだ。犬はゆっくりと歩み寄った。と、ふいに近くの木から、胸毛の黒い親すずめが、犬のすぐ鼻さきへ石つぶてのように飛び下りてきた。そして総身の羽をふりみだし、けんめいの哀れな声をふりしぼって、白い歯をむく、犬の口めがけて二度ばかり襲いかかった。親は小すずめを救おうと突進したのだ。身をもってわが子をかばおうとしたのだ。けれど、その小さな体ははげしい恐怖におののき、かぼそい声は狂おしく嗄れつきた。親すずめは気を失った。われとわが身を犠牲にした! すずめにとって、犬はどんな巨大な怪物と見えただろう!それなのに、彼は高い安らかな枝に止まってはいられなかった。意志よりも強いある力が、彼に下りよと迫ったのだ。わがトレゾールは立ちどまり、じりじりと身を引いた。犬もこの力に打たれたと見える。わたしは面くらった犬を急いで呼び、心のひきしまる思いで立ち去った。そうだ、笑ってくれるな。わたしは、この勇ましい小鳥を前に、その愛の衝撃を前に、りつぜんと襟を正したのだ。わたしは考えた。愛は死よりも、死の恐怖よりも強い。 それあればこそ、愛あればこそ、生はもちこたえ、めぐり行く。・・・・・
「散文詩」ツルゲーネフ 岩波書店より引用