今、一つの楽章を終えるにあたり

思い

 「1点だけでは平面は決まらない。2点でも揺らぐ。3点が存在して始めて一つの平面は決定し、安定する。」と数学の空間図形で学びますが、「家庭・地域・学校」の関係と共通しているように思われます。「家庭・地域・学校」という3者の上に広がる平面は、まさに子どもたちの生活する地域社会そのものであるのでしょう。いずれかが縮こまったり、肥大してしまったりすると、とたんに平面は傾き、その上で生活する子どもたちは斜面から滑り落ちないように、身体を強ばらせなければならなくなるに違いありません。
 この場合の「点が決まる」が意味するのは何なのでしょう。それは子どもの躾や教育に関して価値観が同じ方向を向いていることであり、先入観を持たずに「よいことはよい」「いけないことはいけない」と判断する『ものさし』が同じであることのような気がします。その上で表れた誤差を微調整しながら、それぞれが同じ大きさで育っていく必要があるのでしょう。
 そして今、4つめの点(時には5つめの点)の存在を感じることが多くなりました。4つの点が存在するとき、それらを一つの平面に乗せていくことは、大変難しい問題となるのは言うまでもありません。それは「その中のどの3点で平面をつくるのかという選択」であり、「そこでできあがる平面に4つめの点をいかに乗せるのか」苦しまなければなりません。点が増えればそれだけ慎重な姿勢と共通理解のための時間が必要となるのです。
そのための一つの術は、それぞれが互いにリスペクトして積極的に関わり、自己肯定感を高め合う関係になっていくことです。頑張りを認めつつ、切磋琢磨していく「よい緊張感」を持った関係をさらに強化していくことこそ、今求められる姿なのだと思います。
 毎日の学校の中でいろんな子どもたちの表情に出逢います。キラキラ輝いた眼やはつらつとした表情に出逢うと、こちらまで嬉しくなります。逆に、険しい表情やどんよりとした表情には心配や不安を感じてしまいます。いろいろな生活の中で、晴れたり曇ったりするのは思春期の姿ですし、感性をもっている人間であるが故に、その年齢に応じた心の揺れがあるのは当然です。
 私たちが求めているものは、子どもたちの成長であるのは言うまでもありません。ほとんどの動物は、骨格が大きくなり、体つきが完成していくことを成長ととらえます。しかし、人間の成長は身体が大きくなり、生育年齢が高くなっていくだけではないのは確かです。ある人は体力がつくことが成長だと言うでしょう。知力や学力、道徳心や思考力・判断力がつくことだという人もいるに違いありません。確かにそれら全てが成長に欠かせないものです。でも私は、それらに加えて、心の揺れを自らの中で調整していく力と揺れに負けない強さを身につけていくこと、「折れない術」を身につけていくことの大切さを思います。子どもたちは、その力を身近なモデルから学び、いろいろな支えの中で身につけていきます。そのモデルや支えが求められているのだと考えます。
 改めて、支え合い、力を一つにして取り組むことの大切さを感じています。

 教職について37年が過ぎようとしています。
もしも、その間に「その頃と比べて変わったもの」を尋ねられたら、実に多くのものが思い浮かびますが、「今も変わらない素晴らしいもの」を尋ねられたら、私は、「子供たちの本質的に持っている健気(けなげ)な姿だ」と答えます。そんな姿に人一倍多く出会い、たくさんの感動とエネルギーをもらったことをとてもありがたく思っています。

もしも、「教師として何が一番印象深いか」と尋ねられたら、私は、「いろんな涙に出会ったこと」と答えます。これまでいろいろな涙に出会いました。
哀しい涙もあれば、喜びの涙、感動の涙もありました。悔し涙も、傷ついて苦い涙も笑顔に似合う涙もあったように思います。どの涙も、大きな心の揺れが背景に在りました。どの涙も周りの心をも揺らしました。

 昔から、自分はなんて幸せな人間なんだと感じてきましたし、機会ある度にそう語ってきました。というのも、私の周りはいい人ばかりだったし、出会ったすべての人から多くのことを教えていただきました。それが先輩や同僚のこともあるし、時には生徒や部活動の部員でした。そのおかげで、今があります。心から感謝しています。
 粟野中学校での3年間、そして、この37年間 本当にありがとうございました。

 卒業にあたり、私は、毎年同じ詩を贈っています。
 そして、今 この詩を自分自身でも噛みしめたいと思います。
 
自分だけのシンフォニー

人生は、壮大な交響曲(シンフォニー)

  穏やかなだけではつまらない
    きれいなだけではもの足りない
      アレグロだけではせわしすぎる
    ましてや、人まねだけではさみしい

  決して、美しいメロディーでなくていい
      きれいな音色でなくていい
    ましてや、背伸びする必要など・・・・・・・

  まだまだ未熟な自分であろうと
   自分を精一杯表現しようとする真剣な姿が、
   自分のもてる全てで奏でようとする姿が、
             人々に感動を与える

  自分だけのシンフォニー
  今一つの区切りを迎え、次の楽章へと向かう…

        平成二十七年三月吉日
                  北 川 博 規



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